乳牛は発酵飼料が好き
複数の大きなコーンサイレージ(発酵させるために約350kgに圧縮し、フィルムでラップしたもの)が目を引き、乳酸発酵による香りがほのかに漂っている高山牧場。「牛は、発酵しているえさの方が好きなんです。やや多めの水分を含ませて作るので、かびが生えないよう、異物が混じらないように気をつけて作っています」と、高山さん。とうもろこしを裁断できる大型機械を共同購入し、本格的に飼料作りを行うようになったのが9年前。とうもろこしについては今や売るほどあるそうだ。時期をずらしながら飼料をサイレージに作り分けているので、常にいい状態のえさを乳牛に食べさせている。他にも6町歩(6ヘクタール)の牧草地を活用して、「チモシー」などの栄養価の高い牧草を育て、通年、自給飼料で乳牛のえさをまかなっているのが特徴だ。
安曇野ならではの「水田酪農」
高山牧場も、近所の農家との連携を持ちながら、安曇野ならではの「水田酪農」を行っている。稲作で出た藁(わら)は、牛のための敷き藁(わら)になり、牛のふんが水田のたい肥となって活用される循環型の農業を、就農時から実践しているのだ。「このあたりはとにかく自然がすばらしい。北アルプスの山が眺められ、上高地から梓川を通って流れてくる水がきれい。ここは、その水で満たされた水田に囲まれています。牛はもちろん、私たち人間も大きな病気をせず、こうして元気に過ごせています」。
安曇野乳牛のブランド力を高める
「私たちは、安曇野の牛乳を飲みたいと言ってもらえるように努力をしています」という高山さん。その指標にしているのが、月1回実施している「牛群検定(※2)」と、日本ホルスタイン登録協会の「体格審査」だ。「牛群検定」では、1頭1頭の100ccの牛乳サンプルを送り、全頭の個体データをとって、体細胞や脂肪量などをチェック。日々の体調管理に役立てている。また「体格審査」では、足が弱いなどのデータがもらえるので、それをもとに敷き藁(わら)の工夫や運動量を増やすなど、牛群を改良することができる。個人負担はかかるけれど、それらの検査を続けることで、安曇野の酪農のレベルアップに貢献しているのだ。
帝王切開した乳牛
以前に、小池、小西獣医師のもとで帝王切開をしたという乳牛を見せてもらった。分娩時に子牛はすでに死んでおり、上を向いて出てきてしまったのだ。しかも子牛が大きすぎて2時間がんばったが、出産は困難を極めたという。現在、左後肢が麻痺しており、すっと立てない状況で、傷口にワセリンを塗った跡も痛々しい。朝6時にはじまったお産だったというが、「すぐに、小池、小西先生が来てくれて助かった。普通の開業の獣医さんだったらこうはいかない。子も親もだめになるところだった」と高山さん。分娩スペースに、足がすべらないよう、畳が敷いてあったことが印象的だった。
夏は美ヶ原高原牧場で放牧
高山牧場の育成牛たちは、夏の間、美ヶ原高原牧場に移動する。お産に備えて、足腰を鍛え、体力をつけておくための工夫だ。6月になると、農協の技術員が手伝い、高山牧場から美ヶ原高原牧場に乳牛を連れて行くのが恒例行事になっている。
※1 粗飼料…乳牛の胃にやさしい牧草や藁(わら)、乾草などの飼料のこと。
※2 牛群検定…乳牛それぞれの牛群(乳牛の乳量や成分、体細胞などの個体データ)を調べて集計・分析し、能力をチェックするための検定。